物語

とある郊外の公営住宅。
会社員のお父さん。パートタイマーで働く
お母さん。4歳の妹ナホと小学三年生の
ユウナの4人家族が住んでいました。
ある朝、起きてきたユウナは
お母さんに誘われて、生まれて
はじめてお弁当作りに挑戦します。
卵焼き作りを教わり、慎重におかずを
お弁当箱に詰めていきます。
それから、朝ごはんを食べるため
皆で食卓を囲んでいると、何気ない
お母さんの提案から、お父さんとの間に
不穏な空気が流れ始め…
初夏の平日の朝を舞台に、
家族における絆とは何か
という本質を考える物語。


絵本のイメージから

作品の出発点となったのは、とある書店で見
つけた「はじめてのおつかい」(福音館書店
/筒井頼子作)という一冊の絵本でした。 
そこには、初めてのお使いのドキドキ感が少
女の視点で活き活きと描かれていました。 
しかし、絵本でこそ成立するスタイルを実写
で表現していくことは難しいと判断し、舞台
を昭和の高度成長期に建てられた団地に設定
し、テーマも大人が鑑賞する事を前提とする
ものへと変わり、「少女が想いを込めたお弁
当作り」に生まれて初めて挑戦するお話を軸
にして、物語や世界観を構築する事になりま
した。                 
映画の最後に少女の目的は果たされますが、
その行動がまるで水面に投げた石の波紋が広
がっていくかの様に、それぞれの心にさざな
みを起こしていくのです。         
それが何を意味するのか、登場人物たちやひ
ょっとしたら観ている我々も考える時間が必
要なのかも知れません。         


リアルな出演者たち

主演を演じた少女は、当時ロケ地の近所に住
んでいた掛江佑奈さんで、妹役の掛江那帆さ
んと共に、実際の姉妹をそのまま役に起用。
まるでドキュメンタリー的なリアリティを与
えてくれています。その現実感に合わせるか
の様に、お父さん役も自主映画の現場(役者
もされていました)で出会った丸島健さんに
出演して頂き、お母さん役には監督の石出裕
輔が通った大学の演劇サークルに所属してい
た頃からの知り合いで、卒業後も舞台女優と
して活動されていた増田陽子さんに出演を依
頼しました。また、アニメの声優や舞台俳優
やドラマ等に出演されている竹尾一真さんが
、ラジオから流れる天気予報士の声で出演。
増田さんと同じ大学のサークルに在籍してい
た縁で監督の学生映画時代から引き続き参加
して頂いてます。            


フィルム撮影への回帰

映画を撮影していくのなら、今後の経験の為
にもフィルムで1本撮っておきたいなと思っ
たのがきっかけでした。         
フィルムは当然ながら、現像所に持ち込んで
現像しなければ写っているのかどうか分かり
ません。                
撮り直しが効かないメディアなので、ワンカ
ットの撮影ですら現場の緊張感を否が応でも
高めます。ギリギリの予算の中で計算に計算
を重ねることによって、作品の質を押し上げ
る事を期待する狙いもあります。また、フィ
ルムならではの独特な美しさは、デジタルで
撮影された映像では表現出来ない深遠さや味
わいがあります。 フィルムには記憶やノスタ
ルジーと言った表現に留まらず、力強さと実
在感を伴った説得力のある画が私たちの眼に
訴えかけてくると感じます。勿論、デジタル
カメラの映像ならではの美しさも理解できま
すが、フィルムでしか表現できない映像の世
界観を前提に、短編映画を作ってみたいと考
えたのです。              
ただ、学生時代に8mmフィルム(カセット
式のリバーサルフィルム)の経験があっても
16mmフィルム(ネガフィルム)の撮影は、
今作が初めてであったこともあり、技術的な
面や資金面では想像以上に苦労しました。 
      

完成後の展開

この作品の最初のオリジナルバージョンは、
完成後様々な映画祭や上映会等で上映され、
脚本家の故・山田太一氏が審査委員長に迎え
た第1回小田原映画祭では、ショートフィル
ム部門でグランプリを獲得。そfれから時を経
て、当時のSDサイズの画質だった映像を、
もう一度ネガフィルムからHDサイズへテレ
シネをして、タイミング補正をしましたリマ
スターを作りました。それから、映像素材全
てを見渡し、現在の解釈で再編集をすること
にしました。              
その後音響を向上させ、「風呂屋の御主人」
の音楽を手掛けた黒木千波留氏に新たな音楽
の作曲と収録を依頼しました。新しくリニュ
ーアルされた「ユウナとちいさなおべんとう
」は、物語や雰囲気はそのままに、テーマを
より明確にしたリビルド(再構築)版として
生まれ変わりました。          

 


キャスト

掛江佑奈
掛江那帆
増田陽子
丸島健

(ラジオの声)
竹尾一真
鈴木ゆかり
石出裕輔

(バスの乗客)
藤根三代子
北山佳子
北山小希永
菊池京子
速水静香
山田勝典
古川早紀子
神とも子
神加奈子
乾麻奈未
細川裕子
堂前悦子


スタッフ

  撮影監督:良知暁   
  音声:上田洋 
  美術:中桐崇文
 整音:坂井泉
   記録:中澤さやか
  編集:石出裕輔
  音楽・ピアノ演奏:黒木千波留       
   記録:中澤さやか
撮影助手:増田佳恵
     伊坂沙和
照明助手:上杉直子
     撮影応援:多田正悟     
     森本智典
     小玉賢太
     田中文枝
  協力:今西祐子
    松田彰
     相沢治彦
      掛江フク子
      松本真理子
     野本昌嗣
  監督・脚本・製作:石出裕輔      

フィルム:KODAK VISION2 250D / 500T
現像:東映ラボテック
HDテレシネ:東京現像所

2024年 / 16mm / 19min50sec / STEREO